テントに関するトラブルについて

弊社においてユーザー様よりご指摘を受ける頻度の高いトラブルについて
弊社では、1971年に世界で初めて吊り下げ式のテントを発表して以来、山岳テントを中心に企画・制作を続け、大変多くのユーザー様にご利用頂いてまいりました。これまで多くのご意見・ご要望を頂戴してきましたが、ユーザー様が比較的陥り易く発生頻度が高いトラブルのうち、少しの注意で防げるものを説明させて頂きます。下記の件にご留意の上、弊社のテントを少しでも長く快適にご使用頂ければ幸いと思います。
1. 良かれと思ってやったことが仇に・・・(フットプリントの選択ミスによるトラブル)
最近、テントにはますます軽量化の波が押し寄せています。ダブルウォールテントでも1kgを切るテントも出現してきました。このことにより、テントのボトムの生地も非常に薄い素材が使用されるようになり、その補強のため、ボトムシート(別売りグランドシート)をセットで購入することを推奨するメーカーも多くなりました。これはもちろん理にかなった正しいことなのですが、別売りのボトムシートの代わりにブルーシートなどでボトムシートを自作して使用するユーザー様も増えています。この行為の最大の盲点はテントの大きさとボトムシートの大きさの違いにあります。防水性をアップさせるためにボトムに防水シートを敷くことは正しいのですが、そのシートがテントのボトムより広いと「良かれと思ってやったことが仇に・・・」という現象が起きてしまいます。理由は、下に敷いた防水シートの表面に水がたまり、例えて云えば「池の上にテントを張った状態」になってしまうからです。防水シートの表面に水が溜まらないようにするには、テントのボトムから防水のボトムシートがはみ出ない大きさで使用することが大事なのです。せっかく防水性をアップさせようと思って行った行為が逆に水を呼んでしまい、テント内への水の漏水を起こしてしまう。このような事例が増えていますので、このことは、ぜひ注意して頂きたいと思います。
2. 数回の使用でグランドシートのコーティングが剥離した(テント内もシートを敷いて保護しましょう)
テント本体のグランド部分は防水性が必要ですので、ポリウレタンコーティングを施して防水加工をしています。しかし、テントの構造上避けられない問題として、本体グランド部分は外側・内側のどちらにコーティングを施してもコーティング面に負担がかかってしまいます。どちらか?と問われれば外側より内側の負担が少ないので内側にコーティングを施しているのですが、それでもテント内に置かれたザックや鋭利な道具、そしてテント内で動く人などコーティングの剥離の原因となる要因はたくさんあります。よく軽量化のためにテント内にシートを敷かないで使用するユーザー様がいらっしゃいますが、ある程度のコーティング面の消耗は納得の上で、このような使用方法をされるのでしたら良いのですが、極力、コーティングを消耗せずにテントを長持ちさせたいというユーザー様におかれましては、必ず銀マットなどのインナーシートを敷いてコーティング面を保護してご使用されることをお奨めします。グランドシートのコーティングの劣化は、テントの避けられないウィークポイントです。普通に使用しているだけで一番消耗する部分だということをご理解頂きたいと思います。
3. 極限状態でもないのにポールが折れた(ポールの挿し込み不足に注意)
テントポールは構造上想定外の力がかかると折れる場合もございますが、弊社にくる修理依頼の多くは、ポールの差込部分が縦に裂けたように割れているケースです。このような割れ方は、ポールの差込が不十分な場合のみに起こる現象で、ポールが正常な状態でセットされていればこのようなことは起こりません。そして、この場合、ユーザー様のほとんどの人が「大した風でもないのに折れた」という、いわゆるクレーム扱いでテントを持ち込まれます。逆に見事に折れたポールの修理を持ち込むユーザー様の多くは「あの状態ではポールが折れても仕方がない」という納得した気持ちで修理を希望されます。この件につきましては、ポールの差込をしっかり確認して設営をしていただく以外に方法はありません。また、夜間などなかなか確認がしづらい場合もございますので、万が一のために予備ポールを1本携行することをお奨めします。また、最近の事例として、雨天時の撤収の際、フライシートの水滴を落とすために、設営されたテントのセンターハブ部分を持ち、テントを上下に激しく振った際に、センターハブ部分のポールがずれて破損したという事例がありました。テントが地面に設営されている状況では起こりえないことですが、空中で上下に激しく振ると、ポールが破損する可能性があるので、フライシートの水滴を取る場合は、設営した状態で布巾などを使用しふき取るようにお願い致します。
4. フライシートのシームテープおよびコーティングの異常に早い劣化
(強風時のフライシートとスクリューフックの摩擦に注意)
09年より弊社のテントは全て吊り下げ式テントになりました。設営が簡単で、スリーブ式と違って「強風時には、本体をペグで固定してから設営ができる」というメリットがある吊り下げ式のテントですが、強風下での設営時に必ずやって欲しいことがあります。そして、表題のトラブルは、それをやらない場合に高頻度で発生します。無風状態ではそれほど神経質に考える必要は無いのですが、風が吹いているときにテントを設営する場合は必ず、張綱の裏側に、面ファスナーをポールに固定して頂きたいのです。さらに、張綱自体をしっかり固定することによって、風に対する強度がアップするだけではなく、「吊り下げ式のスクリューフックがシームテープやフライシートのコーティング面を刺激する」といった、剥離の原因になる事象を防ぎます。この点に留意しないと、吊り下げ式テントでは、非常に短期間でフライシートのシームテープやコーティングの剥離という状況が発生する可能性があります。また、想定外の強風が吹いた場合、上記を実践していればポールの破損もかなり防げるのですが、未実施だとポールに強い負担がかかり破損することがあります。その際、破損したポールはフライシートを突き破り被害を大きくします。「「張綱の裏の面ファスナーの固定」と、「張綱の固定」をするだけで、このようなトラブルはかなりの割合で避けられます。テントの剛性をアップし快適なテント生活を手に入れ、さらにテントの寿命を延ばすために、ぜひ、上記2点を実践して頂きたいと思います。
5.フライシートと本体ボトムのコーティングやシームテープに同時に発生する異常な早期劣化
(テントは使用したら必ず乾かすことが重要です)
このケースは、実はクレームとしてかなりの頻度で報告されています。「使用回数も少なく乱暴に扱っておらず、購入して時間もそれほど経過していないのに、気がついてみるとテントが表題のようなことになっている」という状態は、ユーザー様に落胆と理不尽を感じさせるものと思います。この場合、生地自体に問題がある時は、その生産ロット全てにこうした不良品が発生します。しかし実は、このようなトラブルの多くは、高温多湿の条件で発生した加水分解が原因で起こるのです。テントは雨天ではもちろん、晴天の場合でも結露などが原因で、使用後はほとんどの場合濡れています。それをそのまま収納袋に入れて、さらに通気性の全くないビニール袋などに入れた状態で数日〜数週間放置してしまうことが問題です。時期が高温多湿の時期ならなおさらです。こういう条件が重なりますと購入の新しい、古いにかかわらずフライシートや本体ボトムに劣化が生じます。さらに、最悪な場合、フライシートにカビが発生してしまいますが、こうなると防水性は全く無くなり洗っても二度と復元はしません。これらの理不尽な状況からテントを守る方法はただひとつ、こ使用後は必ず収納袋から出して完全に乾かす。これに尽きます。そして出来れば、高温多湿でない環境で保管して下さい。そうすればテントの寿命は格段に延びます。折角購入したテントを少しでも長く快適に使用して頂くためにも、ぜひこの点だけは実行してほしいと思います。特にシングルウォールのテントは、本体自体が防水性を持っていますので、防水性を低下させないためにも、ことさら注意が必要です。
6. まだ新しいのに水が漏る(テントの防水性の限界ということもあります)
まず、テント自体に問題があるケースでは、多くは5で記したことが原因で、フライシートにカビが付着したりシームテープやコーティングが剥がれていたりする場合です。特に、カビがフライシートなどの防水生地に付着してしまうと修理方法は無く、全くのお手上げ状態になってしまいます。(カビに限らず、防水生地は泥や脂、洗剤などが付着すると防水性が全く無くなります。ただ、洗い流せる成分でしたら洗い流せば復元するのですが、カビに関しては洗い流すことが不可能ですので、付着した段階で手の施しようが無くなるのです)そしてもう一つの原因は、フィールドでのその時の環境です。そもそも、テントは構造上、完全防水ではありません。弊社のテントですと、テント内での酸欠を防ぐためにフライシートの広い面の対角線上に2つのベンチレーションを設置しています。たまたま、風雨時にフィールドでの風向きとベンチレーションの向きが一致してしまうと、ベンチレーションから雨が吹き込みテント内にも水が入ってしまいます。また、ファスナー部分やシームテープがかけられない、張綱取り付けフックの裏側もウィークポイントです。以上のように、テントの防水は万能でないことをご理解頂きたいと思います。
7. 新しいのに倒立スリーブに穴が開いた(ポールスリーブの奥までポールを確実に挿し込んでください)
倒立スリーブの末端部は地面と接触しても充分な強度がある素材を使用していますが、倒立スリーブ部は、軽量化のため、ポールのテンションを充分に耐える強度の素材を使用しています。フライシートと本体を接続するバックルを接続し、テープを強く引きすぎると、状況次第でポールの末端が強度のある倒立スリーブ末端部から外れて、倒立スリーブ部の生地が地面に直接接触する状態になることがあります。そういう状況で、強風などでテントが動きますと、倒立スリーブ部の生地が耐えられずに穴が開くことがあります。設営の際は、ポールがしっかり倒立スリーブの奥まで入っていることを確認してください。
8. 結露についてのトラブル
結露は、温度差やその時の湿度、また、テント内で自炊した時の水蒸気、人の呼吸、設営場所の環境(水辺などだと上昇気流などで水蒸気が飽和状態になりやすい。)などで、状況により発生する時としないときの差が激しいという現実があります。通常、室内に置いても、窓ガラスが水滴でビショビショになることもあれば、全く水滴がつかないこともあります。結露に対するトラブルについては「自然現象」ですので、いろいろな条件で使用していただければ納得していただけると思います。そして結露が発生した時は、付近などで水滴を拭っていただくことを推奨します。テントに付いた水滴をふき取るためにテント山行の場合は、雨天時にも重宝しますので、吸水性の良い布巾を1枚持参することをお奨めします。
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